無痛分娩とは、麻酔などの手段を用いることにより陣痛を緩和しながら分娩に至るプロセスを表す用語です。分娩時に自力でいきむことができるよう、痛みを制御し安全に分娩することを目指すために、和痛分娩とも表現され、完全な痛みの消失を目指すものではありません。
同じ薬物を用いて同じように麻酔を行っても鎮痛の効果には個人差があり、結果として十分に痛みを除ききれない場合もあります。
当院の無痛分娩管理方針は、初産婦は陣痛発来後(オンデマンド)で経産婦は計画分娩を基本としています。詳しくは説明同意書をご覧ください。
当院では硬膜外麻酔による無痛分娩を行っています。無痛分娩は、破水後や陣痛がきた後(陣発後)に行う「オンデマンド」と、予定を立てて行う「計画無痛」に大別されます。
当院のこれまでのデータから、初産婦の陣発後、および経産婦の陣発後・計画入院では分娩がスムーズなことが多く分娩停止で帝王切開になることはありませんでした。しかし、初産婦の計画入院では分娩に至るまでの日数が長く、長くなるほど帝王切開になる可能性が高くなることが分かりました。そのため令和7年より管理方針を以下のとおり変更しました。
破水や陣痛発来(陣発)後に麻酔処置を行います。当院データでは、ほとんどがスムーズに分娩が進行し帝王切開率が非常に低いことが確認されています。
計画入院で分娩誘発を行い麻酔管理を組み合わせる方法です。妊娠38〜39週頃で入院調整します。約2割は自然陣発・破水で事前入院となります。
腰の部分からカテーテル(薬が入っていく細い管)を挿入する硬膜外麻酔を行います。数十分で効果が現れますが、経過中にカテーテルがずれて麻酔の効きが変化することや、左右で麻酔の効果が異なることがあります。鎮痛効果が望めない場合は、カテーテルの位置調整・入れ替え、または脊椎麻酔の追加を行うことがあります。
血圧計・心電図・パルスオキシメーター・胎児心拍モニターなどで母体と胎児の状態を確認しながら、麻酔効果や有害事象を定期的に確認します。へそのあたりまで冷たさの感覚が鈍くなっていると、陣痛・分娩の痛みは十分に緩和されます。突発痛や麻酔効果の左右差があった場合はスタッフに声をかけてください。
ある程度の痛みが出てきたらCADD(麻酔管理装置)で薬を定期的に投与します(少量分割投与)。痛みが強い場合はPCEA(患者自己調節硬膜外麻酔)で自分で追加投与できます。ただし安全性を配慮して連続投与できない仕組みになっています。分娩進行でPCEAだけでは不十分な場合は別途レスキュー薬で対応します。
カテーテルは出産後当日または翌朝に抜去します。
足の感覚や筋力が鈍くなるため、基本的にベッド上でお過ごしいただきます。トイレなど歩行の際はスタッフに声をかけてください。尿意を感じにくくなることがあるため、定期的な排尿・導尿を行う場合があります。
胎児心拍の状態により早期に分娩を終了させる必要があると判断される場合や、経腟分娩が難しいと判断される場合には、帝王切開の準備として絶飲食にすることがあります。いきむのが難しい場合は助産師がタイミングや呼吸法をお伝えします。
| 合併症・副作用 | 頻度(一般値) | 概要 |
|---|---|---|
| カテーテル入れ替え | 約7% | 位置ずれ等によるカテーテルの再挿入 |
| 低血圧 | 10〜20% | 麻酔薬の血管拡張作用による |
| 背部痛 | 30〜40% | カテーテル挿入部位の痛み |
| 発熱 | 10〜20% | 麻酔後に体温が上昇することがある |
| 悪心・嘔吐 | 1〜2% | |
| 末梢神経障害 | 約1% | 自然分娩でも児が産道を通ることで0.3〜2%に生じる |
| 掻痒感(かゆみ) | 約1% | |
| 胎児一過性徐脈 | — | 一時的な胎児心拍数の低下 |
| 硬膜穿破後頭痛 | 0.4% | |
| 膀胱麻痺・尿閉 | 0.4% | |
| 硬膜外血腫 | 1/数万 | 極めてまれな重篤合併症 |
| 硬膜外膿瘍 | 0.08% | |
| アナフィラキシーショック | まれ | |
| カテーテル断裂・遺残 | まれ |
| 合併症 | 頻度 | 症状と対応 |
|---|---|---|
| くも膜下迷入 (全脊髄くも膜下麻酔) |
約1% | 下肢の運動麻痺・血圧低下・気分不良・徐脈・意識消失・呼吸抑制・心肺停止など。早期発見すれば対処可能ですが、その後の麻酔管理は危険を伴うため中止となります。 |
| カテーテルの血管内迷入 (局所麻酔薬中毒) |
約6% | 耳鳴り・耳閉感・味覚異常・多弁・痙攣・意識消失・呼吸抑制など。早期発見すれば大事になることは通常ありません。その後の麻酔管理は中止となります。 |
以下の症状を認めた場合は、すぐにナースコールしてください。
近年の当院における分娩取り扱い件数の実績です。
| 年度 | 全分娩数 | 無痛経腟分娩件数 | 帝王切開分娩件数 | 無痛分娩率 |
|---|---|---|---|---|
| 2023年(令和5年) | 513 | 97 | 69 | 約18.9% |
| 2024年(令和6年) | 527 | 122 | 66 | 約23.1% |
| 2025年(令和7年) | 551 | 176 | 72 | 約31.9% |
※ 無痛分娩率は「無痛経腟分娩件数 ÷ 全分娩数」で算出。
※
令和7年よりオンデマンド対応を拡充しており、今後のデータは順次更新予定です。
無痛分娩・麻酔管理料(通常の分娩費用に加算)
緊急帝王切開になった場合やカテーテル挿入ができても麻酔管理ができなかった場合は、それまでの管理料として一部負担金を徴収します。
再入院時に無痛対応した場合はさらに追加となります。
無痛分娩は分娩予定日が決まってから予約調整を行っております。ご希望の方は、受診時に医師や助産師にご相談ください。
遠方ですぐに来院できない場合は、説明同意書をご覧になり、了承される場合に受付へ電話して予約を申し出てください。来院時に再説明いたします。
広島中央通り香月産婦人科
無痛分娩管理者・院長
信実 孝洋